豪州と日本のはざまで小児集中治療を学ぶ

日本から豪州に渡ったPICUフェローである管理人が小児集中治療に関連するあれこれを勝手につぶやいているブログです。

HFOは死なない

 

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当院で使用しているOscillator/ HFOV

 ・・・「死なない」っていうと大げさかもしれません。。

「まだ死んでない」くらいがいいのかなあ。

 

今回の記事では、

HFOV high frequency oscillatory ventilation、高頻度振動換気法について書いてます。

 

オーストラリアでは

Oscillator オキシレーター

ってよんでて最初なんのことかわかりませんでした。

 

1.ケースシナリオ

症例があったほうが想像しやすいから症例提示。

「4歳女児、インフルエンザでARDS。人工呼吸管理中。

SIMV mode rate 30, PIP 24, PEEP 12, FIO2 0.7

ABG pH 7.28, PaCO2 58, PaO2 58, SaO2 88%」

 

だいぶはしょっているけど、どうする? 

 

  1. そのままねばる

  2. HFOを試してみる

  3. ECMO

  4. あきらめる

  5. その他

 

 

 

 

 

 

と問題形式にしておきながら正解は用意していません。

 

単純に、conventionalの人工呼吸器でしっかりとPEEPあげた状態で、

(もっと上げるというひともいると思いますし)、

そのほかの呼吸器戦略どうするかってことです。

 

もちろんProne positionは選択肢にあがると思いますし、iNOとか、

その他にもできることはいろいろあると思います。

 

それは置いといて。

 

話は少しそれますが、オーストラリアでは人工呼吸管理の使用は基本的にICU内のみで許容されます(気切、在宅用呼吸器は除く)。

 

私は一般小児のトレーニングも日本で行い、

その当時ナースステーションに一番近くて広い部屋に人工呼吸管理中のこどもがいるようなことも多々ありました。

 

 

 2.HFOVの原理

概略としてHFOVの原理としては下図の通りです(雑

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HFO のイメージ

3.成人ARDSに対するHFOVの歴史概略

 

2010年くらいまでは誰しもがHFOVをARDSに使用していたといいます。

(自分はまだ研修医だったので、正直なところよく知りませんが、、)

そして2013年、HFOに対して一気に逆風が吹きます

 

 

一流雑誌であるNEJMからOSCILLATE TrialOSCAR Trialとダブルパンチをくらい、

さらに2017年Systematic Review and Meta-Analysisという形で、

HFOのARDSに対する有効性を示すことができずノックアウトしました。

 

いまの時代で、ARDSに対してHFOVを選択肢を挙げる成人ICU医は、

かなり少ないと思います。

 

 

 

4.PARDS(小児ARDS)~逆境?を越えて?~

小児はどうでしょうか?

 

ご想像のとおり、

低い一回換気量の管理がARDSにたいして当たり前の時代になって以降、

小児ARDSのHFOVに関するRCTはありません。

 

1994年のCCMでPARDSに対するHFOVとconventional ventilationを比較し、

HFOVのbetter outcomeを示されていますが、

これは比較群のTVが高容量だったため、今の時代の有効性の根拠には乏しいでしょう。

 

また2014年のJAMA pediatricsでOSCILLATE と同様にHFOVの有効性を示さなかったデータが発表されています。

ただこの内容については多々の批判が指摘されています。

 

 

 

なので専門家の中ではまだ結論がでておらず、

PICUの現場ではまだARDSに対してのHFOVは選択肢として残っているのが現状です。

 

実際、2015年のPALICC PARDS guidelineでは以下のように記載されており、

 

PARDSに対してHFOVは考慮されるべき

 

専門家間で9割以上の同意を得ています。

3.4 High-Frequency Ventilation

3.4.1

We recommend that high-frequency oscillatory ventilation (HFOV) should be considered as an alternative ventilatory mode in hypoxic respiratory failure in patients in whom plateau airway pressures exceed 28 cm H2O in the absence of clinical evidence of reduced chest wall compliance. Such an approach should be considered for those patients with moderate-to-severe PARDS. Weak agreement (92% agreement)

 

また、今年Publish された小児のSurviving Sepsis Campain 2020でも、

断定は避けつつ否定もされていません。

専門家間では半々の意見だったと記載されています。

 

42) We were unable to issue a recommendation to use high-frequency oscillatory ventilation (HFOV) versus conventional ventilation in children with sepsis-induced PARDS. However, in our practice, there is no preference to use or not use HFOV in patients with severe PARDS and refractory hypoxia.

 

 

 

 

 

5.そして未来へ

近年、過去の報告等から勘案し、

従来のHFVOの管理方法が再考され、

 

HFOの開始直後から、

  • 年齢や体格に依らず
  • High Frequency(12Hz)
  • High Initial amplitude (70-90cmHg)
  • Staircase recruitment

 

を推奨する方法が提案されました。https://annalsofintensivecare.springeropen.com/articles/10.1186/s13613-019-0492-0

 

 

そして今PARDSに対するHFOVの試験が走っています。

これは2x2で、PARDS患者を4群にランダマイズし、

  1. Prone x HFO
  2. Prone x conventional
  3. Spine x HFO
  4. Spine x Conventional

で比較していくというものです。

https://prospect-network.org/

 

結果を楽しみにしていますー

 

がしかし、この結果のあとに

「HFOは死んだ (以下略