豪州と日本のはざまで小児集中治療を学ぶ

日本から豪州に渡ったPICUフェローである管理人が小児集中治療に関連するあれこれを勝手につぶやいているブログです。

膿胸Empyemaの問題解説

膿胸について

 

「なぜ膿胸?」

 

実は日本で診療している10年間、小児の膿胸というのはほとんど記憶にありません

 

ただ、オーストラリアにきてからやたらと膿胸に対して胸腔ドレーンいれることが多く、

この件を取り上げてみました。

 

(あとは初回の問題にするにはリソースは限定されて明確でやりやすかった)

 

実診療の方針としては、

  •  急性発症の下気道感染
  •  レントゲンで胸水?mass?consolidation?をみつける
  • Ultrasoundで膿胸の診断、量の確認→ドレーンの判断
  •  24時間後に再度USで量を評価、胸水が改善していないor胸腔内のseptationがある場合線溶療法を考慮
  • 2-3日線溶療法を行って効果がなければVATS
  • 抗菌薬投与期間は解熱後24時間までIV,その後の治療終了まで計数週間で経過による

 

といったところです。

 

挿管人工呼吸が必要になる症例は多くはなく、ほとんどはHFNCで対応でき、落ち着いたところでICUは出ていくことが多いです。

 

CTは必須でなく、上記経過の中で
- 通常と経過が違う
- 肺膿瘍/肺出血等肺実質疾患/感染を疑う
場合に適応となるかと

 

結核の可能性をどこまで考えるかは、病歴から流行地域の確認と家族歴の確認でPPEを行うか、抗酸菌検査を追加するか、というところです。

 

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生来健康、予防接種はアップデートされている4歳女児。
5日間の咳嗽、発熱、増悪する呼吸困難で救急外来受診。
診察所見:
体温39.5度、呼吸回数35回/分、軽度呼吸努力上昇、心拍数150/min、血圧75/35 (55)
SpO2 92% in room air, 96% 2L/min鼻酸素
胸部レントゲン(参考で、4歳のものではありません)

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胸部レントゲン

問題1 胸部レントゲン所見は?

→大量左胸水、縦郭の右方偏移、左側の透過性低下


これが胸水かどうかの鑑別をレントゲンだけでする必要はないと思いますが、一応air broncogramがないことと、massではなさそうかなあというところです。

問題2 予測される起因菌はなにか、またこの患者に対してどの抗菌薬を投与するか?

起因菌:オーストラリアでは

  • Streptococcus pneumoniae
  • Staphylococcus aureus

が最もcommon(MSSAもMRSAも)、

その他Group A streptococcus; Streptococcus milleri group, Haemophilus influenzae

Uncommon: Mycoplasma pneumonia, Chlamidia pneumonia, Pseudomonas aeruginosa, Burkholderia pseudomallei, Klebsiella species。


誤嚥リスクがある場合は嫌気性菌も考慮。

抗菌薬:上記からCeftriaxone 50mg/kg 24hourly+Vancomycin(Flucloxacillin)


ここはMRSAの地域特性にもよりますが、日本ではFlucloxaxillinがないのでVancomycinになると思います。


このFluclxacillinという抗菌薬については後日書きたいと思っています。
誤嚥がある場合はClindamycinを考慮とガイドラインにはあります。

 

問題3 以下の各治療について利点と欠点は?
ⅰ. 抗菌薬単独療法

抗菌薬単独療法の適応は呼吸努力が小さいこと+胸水量が少ないことです。
利点としては非侵襲、欠点としては治療失敗・治療期間の長期化です。


ⅱ. 抗菌薬+胸腔ドレーン

胸腔ドレーンの適応は各施設によっても異なると思います。特に中程度の呼吸努力でゆっくりと増悪傾向かつ胸水量が少ない場合、判断が複雑化します。まだ待つのか、リスクを負いながらドレーンをいれるのか。どちらでもよいと思います。ちなみに使用するドレーンは大きくなくてよく、8FrのPigrail胸腔ドレーンで十分なことがほとんどです。このドレーンに三方活栓をつけておくと、後々の線溶療法で使い勝手がよくなります。

利点としては感染の局所コントロールがより積極的にできること、肺の再拡張ができること、その後の胸腔内線溶療法につなげられること、欠点としてドレーンの疼痛コントロールが必要なること(きちんとドレナージされるとむしろ軽減するかもしれませんが)、処置にあたり麻酔の必要があること、線溶療法・VATSがなくドレーン単独療法の場合は入院期間の長期化の可能性があります。


ⅲ. 抗菌薬+胸腔ドレーン+線溶療法(アルテプラーゼ胸腔内投与)

線溶療法はウロキナーゼやアルテプラーゼを胸腔ドレーン経由で投与し、フィブリン塊を溶かしてドレナージ効率をよくするといった治療方法です。利点としてはVATSより非侵襲的であること、胸腔ドレーン単独療法よりも入院期間が短いこと、欠点としては肺出血、凝固障害がある場合には使用できないこと、出血のリスクが挙げられます。


ⅳ. 抗菌薬+Video assisted thoracic surgery (VATS)

VATSは日本語でいうと、

胸腔鏡下膿胸掻把術

らしいです。

 

最初にバッツってきいたときは

「肺切除すんの?」

と思いましたが内容が違いました。

 

 VATSは抗菌薬単独療法と比較した場合に治療期間が短いということがある一方で、外科の専門的手技が必要になるので、施行可能な施設が限られるというのは難点です。

また高価です。

 

問題4 膿胸に対する線溶療法およびVATSのエビデンスは?

 

VATS vs urokinaseのRCTはUKから60例を対象にしたものが報告されています。

その結論としては両郡間で介入後の入院期間は差がなかったとなっています。

アメリカでurokinaseとalteplaseに置き換え同様の結果を得ています。

 

重要な点としてはVATSのほうが非常に高価であることが挙げられています。

 

またVATSは技術的な点から1歳未満には難しいとされ、この年代には行われない傾向があります。

 

推奨としては、8-12Frといった小さい経皮的挿入式ドレーンを挿入し、線溶療法とVATS療法をオプションとしてもつ、というところです。

鈍的に挿入されたドレーンはより疼痛が強く、より多い疼痛コントロールが必要になります。

 

 

以上です。

 

まとめると、

 

  •  急性発症の下気道感染
  •  レントゲンで胸水?mass?consolidation?をみつける
  • Ultrasoundで膿胸の診断、量の確認→ドレーンの判断
  •  24時間後に再度USで量を評価、胸水が改善していないor胸腔内のseptationがある場合線溶療法を考慮
  • 2-3日線溶療法を行って効果がなければVATS
  • 抗菌薬投与期間は解熱後24時間までIV,その後の治療終了まで計数週間で経過による

 

おしまい。

 

参考文献:

Paediatric Empyema THoracis: Recommendations for Management, Position statement from the Thoracic Society of Australia and New Zealand

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膿胸の治療戦略