豪州と日本のはざまで小児集中治療を学ぶ

日本から豪州に渡ったPICUフェローである管理人が小児集中治療に関連するあれこれを勝手につぶやいているブログです。

【PICU教育】「小さいPICU」でのトレーニングは「大きいPICU」に異動する前段階になり得るのか

どうも僕です。

オーストラリアは季節が月で明確に区切られています。

春 9-11月

夏 12-2月

秋 3-5月

冬 6-8月

といった感じです。

日本は体感で、「もう秋だね」と言った感じですが、ここら辺もオーストラリアにいての違和感。

今10月も終わりに近づいて、夏も見えてくるかと言ったところではあるんですが、時々寒いです。

小さいPICUでの勤務開始

さて、8月から異動してきたPICUは8床で、心臓手術なし、ECLSなし、多発外傷なし、血液腫瘍を含めて移植医療がない小児病院です。それでも年間入室数は800を超えていて、ここら辺は集約化が効いているとも言えるし、ICU入室閾値が低いとも言えるかもしれません。

サイズとしては異動前の施設の3分の1程度で、上記の通り全体的な暴露量も重症度も低くなるので、これまでそれに触れてきた自分に対して異動にあたり元の上司や同僚からは「何かそこに行って学ぶことはあるのか」と心配されることがありました。

実際に日本でも、大きいサイズのユニットで働く前に小さいところで手始めに働いて、それから「アドバンストレーニング」としてECMOや心臓手術をするユニットに「ステップアップ」としてくる人もたくさんいます。

実際自分でも小さいユニットで働くことに対して、トレーニングとして疑う点はあったのですが、実際に3か月働いてみて、さまざまな発見と経験をさせてもらって今の印象は

小さい施設でのトレーニーとしての業務は、以前所属したビッグユニットでのそれよりも「難しい」ということです。

その理由を残しておきたいと思います。

ユニットのサイズの違いがもたらす変化

  1. さまざまなリソースを考慮に入れる必要性

    小さく、診療対象内容が限られるともちろんそれに対する準備はない、ということになります。わかりやすくいうと、ECMOはできないのでそれを避ける管理と必要になりそうな場合搬送可能な段階でのそのおオーガナイズと準備が必要になります。「これを試してみて、やっぱりだめだから、じゃあECMOしようか」ということができず、「これとこれをやって改善がなかったら余裕がある段階で搬送しよう」という判断が必要になります。

    リソースという意味では人員もそうです。

    医者のうちトレーニーの大半がICUのトレーニーではありません。救急、小児科のトレーニーが多く、救急のトレーニーのほとんどが超音波ガイドのライン手技等に精通がありません。なので侵襲的処置が必要になった場合にその場に勤務している人の中で最もシニアの人しか挿管やCV挿入ができないということが起こります。ましてや夜勤ではその人がオンコールに変わるので、そのフロアに侵襲的処置をできる人がいない、という状況があり得るのです。なので、それを考慮した対応が必要になっています。

    看護師の経験も少ないことが多くなっています。毎日心臓手術の術後を見ていれば毎日ノルアドやアドレナリンを使いますが、General PICUの患者だけだとその数がかなり減ります。

    敗血症のノルアドの使い方、調整の仕方など、明確な血圧の目標値を伝えた後、どうなったらどれくらい調整するのかを、具体的に伝えておかないとおかしなことになっていることがしばしばです。

    上記の理由で、「重症度の割に気が抜けない」「必要以上に忙しく感じる」というのを実感しています。

  2. トレーニーとしての仕事内容

    上記の通り、人員が少なくなる分、大きいユニットに比較してトレーニーが判断を迫られる機会が多いと感じています。臨床に限らずベッド調整などの事務的もしくは臨床とは違った部分の調整での判断を迫られることも少なくなく、言ってしまえば「医学的以外のことを考慮した判断を求められる」ことがあり、それが臨床業務をより複雑にしています。

    家族といわゆる「難しい会話」をする機会もその分増えますのでその準備も必要と感じています。

まとめ:小さいユニットで働くことは「難しい」

上記の理由から、トレーニーとしては「よりアドバンスト」なトレーニングに感じています。また、これまで比較的大きいユニットばかりで働いていた自分にとってはすごくいい経験になっていると思います。

医学的なところだけでなくシステム、教育、医療安全、コミュニケーション等も要求される今の職場にある意味で充実感を覚える一方で、ICUに精通した経験やスキルがなく精神的なストレスが膨大している他のトレーニーに対してはケアをしていかないといけないですし、システムとして変える必要があるところを優先順位をつけて上に問題提起していかないといけないと思っています。

 

上記から、必ずしも小さいユニットでのトレーニングは大きいユニットで働く前段階になるとは限りません。小さいユニットで重症度の低い患者を管理することがより簡単な仕事とはならないからです。

もちろん、PICUトレーニーの全員がビッグユニットからトレーニングを開始する機会があるわけではありません。

どこにいても学ぶことはありますし、また雇う側からすると、各個人のトレーニング段階・スキルセットに応じたサポートと、明確なトレーニング目標が重要だなということを改めて感じています。