豪州と日本のはざまで小児集中治療を学ぶ

日本から豪州に渡ったPICUフェローである管理人が小児集中治療に関連するあれこれを勝手につぶやいているブログです。

【今日の学び】Heparin Induced Thrombotic Thrombocytopaenia Syndrome

特に小児でECMOを回しているとコンスタントに血小板が低下します。

それで4Tsクライテリアを満たしてときどき抗凝固を変更するんかってなることがあるんですが、

成人で発症率がヘパリン使用者の中で1-5%で小児ではさらに有病率が少ないと報告されている*1ので結局なにもしないということがたいていのような気がします(ECMO自体が血小板減少の原因といってしまえばリスクがだいぶ変わってしまうので、そういうことなんだろうけど)。

 

*******************************

 

Heparin Induced Thrombotic Thrombocytopaenia Syndrome (HIT/HITTS)

HITはICUにおいて大きな問題。

  • UFHやLMWHはICUで頻用される
  • 血小板減少はよくおきる
  • HITの合併症は重症になりうる

HITには2種類あって、

  • HIT type 1、良性、非免疫誘導
  • HIT type 2、重症、一般的にHITと言われるほう。
    免疫反応に惹起される症候群で、PF4/heparin混合体に対する抗体が原因

Type 2の有病率

  • UFH: 1-5%
  • LMWH; <1% 

病態生理

血小板因子4(PF4)

  • PF4は血小板が活性化されたときに放出される→細胞表面にあるアニオン性グリコサミノグリカンと結合する→巨核球の形成と血管新生を阻害+免疫応答を変えてしまう
  • PF4は外傷、炎症、手術、悪性腫瘍でも産生される

HIT type 1

  • ヘパリン暴露から4日以内に10‐30%に起こる
  • ヘパリンがPF4に結合→cAMPが減少→血小板の中等度集積と血小板減少
  • ほとんどの場合、100,000/μL以下にはならない
  • 軽症で自然治癒する

HIT type 2

  • PF4とヘパリンの混合体→免疫応答のトリガー→IgGがPF4/ヘパリン混合体に結合→血小板Fc-receptorsがクラスター化→血小板の活性化→動静脈での血栓形成
  • HIT抗体は単球のFc receptorに結合することもある→tissue factor→血栓
  • 血管内皮障害→vWFと可溶性トロンボモデュリンの増多→血栓

ヘパリン抗体を有したすべての患者が血小板活性と臨床的HITになるわけではない

  • HIT-IgG形成した患者の5%-30%が臨床的HITになる

臨床症状

発症

  • 典型的にはヘパリン暴露から5-10日後
  • 10日以降であれば他の原因を考えるべし(sepsis、薬剤)
  • ヘパリン暴露歴が以前にある場合は急性発症がありうる
  • ヘパリンを中止したあとの遅延した発症もありうる

血小板減少

  • 通常40,000~80,000/μLに減少する
  • 20,000以下になるのは10%未満。

危険因子とスコアリング

危険因子

  • 暴露したヘパリンの量(多いほうがハイリスク)
  • PF4産生量・・・手術・外傷は内科疾患よりもハイリスク

スコアリングー4Ts

  • Thrombocytopenia severty 血小板数
  • Timing of onset 発症時期
  • Thrombosis 血栓症の有無
  • Thrombocytopenia due to other causes 血小板減少のほかの原因

    f:id:K-doc:20210106135153p:plain

    4Ts スコア、UpToDateから抜粋

検査

抗原検査 ELISA等

  • PF4/polyanion EIA
  • 抗体のPF4/Heparin混合体に対する反応を検知する
  • IgGが最も感度が高い
  • 感度は高い(90-98%)、特異度は低い(65%)
  • 高値は臨床症状改善を遅延させる

(ここらへんのELISAと4Ts scoreの解釈についてはこちらのUpToDateのtable5参照)

機能的アッセイ

  • Heparin-induced platelet activation (HIPA) とセロトニン放出アッセイ
  • 高い特異度
  • 難しい、できる技術者が限られる

合併症

  • 深部静脈血栓症 DVT 50%、PE 25%
  • 動脈血栓 動脈、腸間膜、脳梗塞、心筋梗塞、下肢虚血 など
  • 皮膚壊死
  • ボーラス投与後の急性症状(アナフィラキシー・PEのようにみえる)
  • 非代償性のDIC
  • 死亡率10-30%

管理方法

  • ヘパリンの中止、これはヘパロックやヘパリンコーティングのカテーテルを含む
  • 血小板輸血を避ける
  • 疑わしければ検査結果を待たずアクション
  • 合併症がなくて事前確立が低ければ検査まち
  • ヘパリンの代わりー直接トロンビン阻害薬(lepirudin, bivalirudin, 日本ではアルガトロバン)、Xa因子阻害薬(donaparoid, fondaparinux)
  • ELISA陽性はHITの診断に直結しない
  • HIT患者に対するワーファリンは血小板が戻るまでさける(プロテインC/S欠損に伴う血栓リスク、皮膚壊死のリスク)

***************************

 

オーストラリアにきてからBivalirudinはときどき見かけますが、

最大の問題点は、発音できないこと

(「バイバル..バイバリルデュ..sorry, I can't say that」がお決まりになっている)

*1:Obeng EA, Harney KM, Moniz T, Arnold A, Neufeld EJ, Trenor CC 3rd. Pediatric heparin-induced thrombocytopenia: prevalence, thrombotic risk, and application of the 4Ts scoring system. J Pediatr. 2015;166(1):144-150. doi:10.1016/j.jpeds.2014.09.017