豪州と日本のはざまで小児集中治療を学ぶ

日本から豪州に渡ったPICUフェローである管理人が小児集中治療に関連するあれこれを勝手につぶやいているブログです。

【今日の学び】VA ECMO の基本事項

昨日のVVに続き今日はVA ECMOの回診で学んだことを羅列します。

 

1. 基本事項

- ECMOサポートは十分か?

  • ECMO flowは十分か?
  • 患者の循環は確立されているか?

- 合併症はどうか?

  • 原疾患に伴う合併症はあるか?
  • ECMO関連合併症はあるか?

- どのように臨床を前に進めていくか?

  • なにか取り除けるサポートはあるか?
    ECMO離脱できるか?抜管できるか?
  • 全体のプランはなにか?
    ECMOはどこにつながるか- bridge to recovery or VAD/transplant?
    GOCの見直しが必要でないか?

 

2. ECMOのサポートが十分かどうか、どのように評価するか?

考慮すべきこと - ECMOの循環と患者本人の循環

 

ECMO循環

  • MAPは目標値にあるか?
    成人は通常MAP>60(小児は年齢と病態による)。MAP>80になると左室後負荷上昇に伴い十分なECMO流量を保つことが難しくなる。
  • 臓器還流不全の兆候はあるか?
    乳酸値、尿量、皮膚冷感/色調、意識レベル(抜管患者)
  • 患者の循環は確立されているか?

患者の循環

心拍出量は非常に低い場合

  • LVでの血流うっ滞→血栓形成
  • LV拡大→心筋回復の遅延と冠血流阻害
  • 大動脈弁逆流の悪化→LV拡大
  • LA 圧の上昇→肺うっ血

心拍出量が高い場合

  • ECMOが心筋の回復に貢献していない可能性
  • 高容量のinotorpes→虚血の可能性
  • Defferential hypoxia

その他

  • inotropesの必要量の見直し
    多少の拍出があり、その他の合併症を予防できる最低量
  • LVうっ滞・拡大のリスク減少
    動脈圧ラインで拍出量を予測
    心エコーでLV、大動脈弁逆流を評価
  • RV/LVに対する前負荷が十分であることを確認する

3. ECMOの患者由来合併症

Sepsis

  • 真菌まで考慮。カニューレが抜けるまで続くこともある。

 

出血

  • 抗凝固されていることを念頭に
  • カニュレーションサイトの診察
  • その他の出血源(後腹膜、胸・腹腔内)
  • 出血に伴う凝固障害を考慮
    - 血小板減少
    - DIC
    - 線溶系亢進、後天性 von Willebrand syndrome

肺うっ血

  • LVうっ滞 and/or 大動脈弁逆流→LV拡大→LA 圧の上昇→肺うっ血

タンポナーデ

  • 拍出量の低下、CVP上昇、アクセス不良 がサイン

血栓(患者の)

  • LV内血栓、動脈血栓、DVT、PEなど
  • HITTを疑った場合、代替の抗凝固薬を検討する

Differential hypoxia

  • 患者からの心拍出とECMO(大腿送血カニューラ)から送られてくる血流の、合流するポイントが脳血流を環流できない部位で起こること。通常右橈骨動脈の血液ガスでモニタリングする。

下肢血流に伴う合併症

  • 下肢過剰血流:送血・脱血カニューレが同側下肢に留置された場合に起こることがある。コンパートメント症候群に至ることもあり、カニューレ戦略を変更と減張切開の考慮は必要となる。

*これは成人では基本的には別々の下肢にカニュレーションするという戦略が成立している一方で、小児で外科にカットダウンでカニューレ留置をしてもらう場合、手間とスピードから片側下肢に送脱血カニューレを留置することが少なくありません。
それに伴い下肢の過剰血流でコンパートメントに至ることは少なからずありますので注意が必要です。小児患者でこれが起こってしまったときに成人ICUがバックグラウンドの同僚は「みたことねーな、そもそも同じ足にカニュレーションしないし」って感じでした。

  • 下肢過少血流:下肢を環流するための逆行送血に問題がある場合に起こる。

神経学的合併症

  • せん妄、けいれん、脳血管障害、脳出血等々。

腎傷害

  • 体液量調整のためにRRTが必要になることがある。閾値は低め。

4. ECMO由来合併症

脱血不良

血栓

溶血

出血

VVと同様

5. 毎日記載・確認すべきこと

- ECMOのタイプ、カニュレーションサイト、ECMO日数、回路日数

- 患者経過

- 循環のパラメーターと目標値
MAP、ECMO flow、カテコラミン投与量の幅、酸素化、IN/OUT目標、輸血閾値、鎮静目標

- 抗凝固

- その日のプランと目標