豪州と日本のはざまで小児集中治療を学ぶ

日本から豪州に渡ったPICUフェローである管理人が小児集中治療に関連するあれこれを勝手につぶやいているブログです。

なぜ”平均”血圧を指標にするのか?

おそらく多くに救急外来や病棟では、収縮期血圧を指標に血圧の測定と評価がされているのではないかと思いますが、

ICUにおいては、PICUも例外ではなく、平均動脈血圧Mean Arterial Pressureが主な指標にされていることが多いと思います。

 

その理由について、7分間の動画にしてくれているのがこちら。

 

www.youtube.com

 

7分くらいの動画です。一見の価値あります。

 

この動画では4つの理由を挙げています。

  1. Tissue Perfusion Pressure
    組織還流圧
  2. Arterial Line Calibration
    動脈ライン較正
  3. Distal Pulse Amplification
    遠位脈圧の増幅
  4. Accuracy Automatic NIBP
    自動NIBP血圧計の正確性

ひとつずつ内容を見てみましょう。

 

1.組織還流圧

 

まず、そもそも、なぜ血圧を測定するのでしょうか?

これに対する回答は非常に複雑を極めますが、自分のボスはよく、

「簡易に得られる数字だから測定する、それ以上でも以下でもない」

といっています。

 

それはそのとおりで、血「圧」というのはある一か所の、血「流」の、二次的指標にすぎず、

しかも、特に重症小児での目的とする血圧の数的指標というのは未だに不明であり、

おそらくはその背景と疾患と状況と日齢・月齢・年齢によって変動が大きく、

「これ」という血圧の数値が臓器還流を約束するものでもなく、例えば今年改定された小児版のSepsis campaineでも平均血圧の目標値は提示されていません。

 

それはさておき、

 

ICUで血圧を測定する目的というのは、

「組織還流が十分かどうかの指標のひとつにするため」

といって、いいですかね

・・・異論は認めます

 

 

とりあえず、そうした場合に、じゃあ血圧のその数値が組織還流の指標に適しているかということになりますが、

収縮期?

平均?

拡張期?

 

どれでしょう?

 

血流は圧差/抵抗に比例します。

圧差、つまりΔPがここでは還流圧perfusion pressureとされ、

それは

動脈圧 Arterial Pressure - 静脈圧 Venous Pressure

であり、

その平均である数値が主に臓器を環流する血流の圧としてとらえられます。

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上記動画より

また、平均動脈圧は、血管のコンプライアンスの影響を受けにくいことがあります。

”硬い”血管の場合、収縮期圧は高くなりやすく、拡張期圧は低くなりやすく

また、

”柔い”血管の場合、収縮期は高くなりにくく、拡張期は低くなりにくい

傾向があります。

そういった場合も、平均血圧はおおむね一致しており、平均血圧のほうが一貫性をもって評価できるということがあります。

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上記動画より


2.動脈圧ライン較正

動脈圧ラインの較正は主に静的較正と動的較正で行われ、動的較正は「反響」と「damping」によります。

簡単にいえば、いわゆる動脈ラインがいわゆる「オーバーシュート」している状況や「なまった」状況が起こりえるわけですが、収縮期血圧や拡張期血圧は大きく影響を受けてしまいます。

一方で平均血圧は理論上は一定であり、平均血圧は較正の影響を受けにくいという特徴があります。

 

3.遠位脈圧の増幅

動脈圧ラインはその位置によって値が変わります。

特に遠位に位置する動脈圧ラインの収縮期圧は血管壁からの干渉により収縮期が高く記録されます。平均圧はこの影響は受けにくく、遠位に行くにつれて平均動脈圧は低下するのが通常です。

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上記動画より

 

4.非観血血圧測定の収縮期血圧

いわゆるカフで測定される血圧がどのように測定されているか知っていますか?

この動画では、

「NIBPの収縮期血圧は拡張期血圧と平均血圧から計算されるため信頼性が低い」

 とされています。

この動画の説明通り、ほとんどメーカーはカフによる加圧で発生する振動を検知することで測定されるオシロメトリック法という測定方法を用いており、

脈波の振動が最大となる点を平均血圧とし、そこから先の収縮期と拡張期の数値はメーカーによって計算アルゴリズムがことなるようです。メーカーによっては収縮期も振動が急に出現するところを収縮期としており、また別のメーカーは平均血圧と拡張期血圧から収縮期血圧を計算したりしています。

なので、非観血的血圧測定においては、

収縮期血圧も拡張期血圧も、その閾値があいまいであり、その脈波が最大となる平均血圧のほうが評価対象としやすい、ということはできるということです。

 

ここではNIBPとABPのどちらが優れているかとか、どちらを信頼すべきかとかは議論されませんが、それは2011年のINTENSIVISTとか読むといいと思います。

こちらも参考になります。

あとは、NIBPとABPの比較としては、

収縮期血圧は高いときはNIBP<ABP、低いときはNIBP>ABP

になりますhttps://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23269127/

ので、常にNIBPはABPが異常値を示した際には安心させる数値を出すんですよね

・・・本題から外れました

 

ということで、ICUでは平均血圧を見ましょう。

 

といいたいところなんですが、、

PICUの入室時リスクスコアのPIMやPRISMでは収縮期血圧が使用されております。

そしてこんな論文もあります。ので、収縮期血圧を無視していいわけでもないですかね、

 

ただ、まあICUでは少なくとも平均血圧で会話する方がいいでしょう

もし、あなたのICU(PICU)に平均血圧が書いてない場合は、

大御所に言わせると

「そーとー、やばいっす。」とのことです。

 

 

 

身近にあっても、よくわからないです、血圧。

 

「なにを示してるんだろう」

 

なにを示しているかわからなんなら、

 

「なんで測るんだろう」

 

と自問自答を繰り返すたびに、ここに帰ってきます。

 

「簡易に得られる数字だから測定する、それ以上でも以下でもない」

 

Yes, sir.